拮抗作用(きっこうさよう)という言葉があります。
どういう意味かと言うと、大辞林第三版では
「生物体のある現象に対し、二つの要因が同時に働いて、互いがその効果を打ち消しあう作用。
心臓の鼓動に対する交感神経(促進)と副交感神経(抑制)の作用など。また、薬物を併用した場合、互いに薬効を減弱させる作用など。」
と書かれています。
発酵と向き合う暮らしにおける拮抗作用とは、発酵食品が保存性に優れていることと重要な関係があります。
すなわち、「発酵菌が繁殖している場所において、原則的に腐敗菌は増殖することはない」ということです。
具体的に述べましょう。
大豆を茹でて、二つに分けます。
片方は、茹でたままで放置します。
もう片方は、米や麦で作った麹と塩を混ぜて充分に混ぜ合わせて放置します。
そうすると、茹でたままで放置した大豆は、やがて腐敗していきます。
そして、麹と塩を混ぜ合わせた大豆は腐敗せずに「味噌」になります。
同じ大豆なのに、どうして片方は腐っていき、片方は味噌になったのでしょう?
それは発酵菌を含む微生物同士の拮抗作用によって違いが生まれたからなのです。
茹でたままの大豆には、空気中の発酵菌や腐敗菌が取り付き、それぞれの働きによって様々な物質に分解されます。
分解された物質がヒトにとって有害なものも含まれるため、ヒトは食べることが出来ません。要するに腐った状態になるのです。
一方、麹と塩を混ぜ合わせた大豆の中では、麹の酵素が大豆の中のデンプンやタンパク質を分解してブドウ糖や麦芽糖やアミノ酸が生成されます。
酵母や乳酸菌は、このブドウ糖や麦芽糖を栄養源として大豆の中で増殖していきます。
そして、乳酸菌は乳酸などの有機酸を生成するため大豆のpHが下がります(酸性になる)。
pHが下がることで酵母の生育しやすい環境になり、茹でた大豆の中に酵母が増殖します。
そうして酵母が充分に繁殖・活動を繰り返すことで、茹でた大豆は「味噌」となります。
味噌が保存性に優れている大きな理由は、味噌の中に酵母や乳酸菌が生きたまま多数存在しているからなのです。
言い方を替えれば、酵母や乳酸菌が多数存在しているため、腐敗菌が増殖しない(出来ない)ということです。
勿論、保存環境次第では味噌にも緑や赤いカビが生えることがあります。
しかしそれはあくまで味噌が空気に触れている表面上に限ることで、カビの生えている部分をキチンと取り除けば、中身は全然問題なく食べることが出来ます。
さてさて、この微生物同士の拮抗作用。
微生物を「人間」に置き換えても同様のことが言えるのではないでしょうか?
松岡さんは、言える気がしてなりません。
微生物同士の拮抗作用を理解することで、37兆個の細胞からなるヒトという生き物の活動や行動に合点がいくことが多すぎる…というが、松岡さんの率直な気持ちと意見であります。
このことについては、近々書きなぐってみようと思います。